夢オチって好きじゃない


スッタモンダの末、もうニッチもサッチも、ってなった瞬間に目が覚めて、


じつは全部夢でしたチャンチャン  っていうやつ


あれほんとフザケんなよって感じする

 

 

 

 

 

 

 

 


愁太郎 「・・・というボクの性格からして、つまりこれは、明晰夢ってことになるな」

 

幸村 「?」

 














愁太郎 「”めいせきむ” って知らない? 寝てる最中にさ、意識を持ったまま見る夢。

夢だって分かってるんだけど、目は覚めてない。ボク割と見るからな。これ多分そうだ」

 

幸村 「そうなんですか?」

 

愁太郎 「夢ってさ、自分が見たものとか、聞いた話とか、ようするに昼間インプットした情報を、寝てる間に脳が整理するために見るって説もあるらしい」



幸村 「ほう」


愁太郎 「だからこの夢はきっとあれだな。昼間にそこのネジマキリスから聞いた、変な列車の話のせいだ」

 

幸村 「・・・変な列車の話。」

 

愁太郎 「ホルツ何とかにさ、行くための列車があるんだろ。

ネジマキの話を聞くかぎりじゃ、
オマエラのワケのわからなさをギッシリ濃縮して詰め込んだ、お座敷列車てきな」






幸村 「ひょっとして、それは急行列車・リスーナイン号のことかしら?」


愁太郎 「・・・そんな名前だったかな」


幸村 「ええと、愁太郎さん。そんな曖昧なことを言うけれど、あなたは今まさに」

 

 

 



愁太郎 「 ”それに乗っているじゃありませんか” って、言いたいんだろ」

 

 















幸村 「・・・納得いかないような顔をしていますね」


愁太郎 「いや、納得いかないというか・・・。 

オマエラサイズの列車に、なんでボクが乗ってるわけ? 

そもそもどっから乗車したんだよ、これ。夢とはいえ、ちょっと無理がありすぎる」

 

幸村 「ふうむ? でも、今あなたがいるのは確かに、列車の中ですよ」

 

 

 

 






  

















愁太郎 「・・・・・・」






















愁太郎 「・・・ボクの中の汽車のイメージに、オマエラから聞かされ続けたワケワカンネー世界観をムリヤリ掛け合わせた感じがよく出てるな」

 


 












愁太郎 「何かにつけ、隙あらばドングリで攻めてきやがる点もふくめ」



幸村 「ドングリは、ホルツヘイムではひじょうに一般的なモティーフですからね!」


愁太郎 「・・・これ全部、ボクの潜在意識が作り出した心象風景、ってことだよな」





















愁太郎 「潜在意識で事故が起きてるな」

 

幸村 「いや、この広告は、ずっと前からありますよ。

ぼくが子どもの頃から、
慣れ親しんだデザインです」

 

愁太郎 「これはボクの夢なんだぞ? そんなはずないじゃん。

・・・ていうか、おまえって夢の中でも、恐ろしいほどいつもと同じだな!」

 

幸村 「ほう? その意見はひじょうに興味深いですね」










愁太郎 「?」



幸村 「いいですか? 

友人や知人が夢の中に出てくるとき、大抵かれらは
普段と全然違う行動をしたり、突然ひどく素っ頓狂なことを言って、われわれを仰天させるものです」


愁太郎 「ああ・・・まぁ、それはたしかに」



幸村 「そうでしょう? つまり
夢の中では、「いつもと同じ」であることのほうがずっとずっと稀なんですよ。

だとするとわれわれは、こういう夢に遭遇したときこそ、フロングにドングリを支払うべきなのだ!」


愁太郎 「突然ひどく素っ頓狂なこと言い出したな、おい」









 










幸村 「おや、もしかするとフロングをご存じない?」



愁太郎 「ご存じあるわけない」


幸村 「もしやフロングはホルツヘイムだけのものなのかしら・・・」


愁太郎 「オマエラの固有名詞は全部それを前提にしゃべったほうがいいと思うぞ」

 

幸村 「フロングを日本語に訳すなら、そう、「職業的夢解釈家」・・・とでも言うのかな。

気になる夢を見たら、彼らのところに行ってドングリを支払えば、夢に隠されたメッセージや意味を教えてくれるんです」

 

愁太郎 「夢解釈家?」









 













幸村 「ええ。ぼくたちの間では昔からよく知られた、しかし少々胡散臭い連中です。

フロングの夢解釈にいれあげて眠ることに夢中になり、ひと財産失うリスも時々いますから」


愁太郎 「それってあれか。インチキ占い師とか霊能者にハマるてきな?」


幸村 「とても似ていますね。だからぼくの家では、フロング通いは厳しく禁止されています。

先祖で痛い目に遭ったリスがいるらしくて、ひいおじいさんの代からの家訓なんです」


愁太郎 「ふむふむ・・・って、ちょっと待て、ストップストップ!」


幸村 「?」


愁太郎 「危ない危ない。自分の夢の中だというのに、ま〜たおまえの手の込んだ作り話のペースに乗せられるところだったぜ」


幸村 「ぼく作り話なんかしてないですよ」


愁太郎 「ほんといつも通りね、おまえも」

 

*** 「兄上」

 

 

















***** 「無理ですよ。このスー太郎が、われわれの世界を理解するのは」


愁太郎 「ん?」


*** 「残念ながら、われわれ貴族とスー太郎では、住む世界が違いすぎる。

彼は日がな一日市場をうろつき、拾った野菜クズのスープで腹を満たしているような男です」

 

愁太郎 「はぁ?」

 

*** 「ゴミ捨て場のビンに残ったすっぱいワインをなめて育ったスー太郎には、パンがなければケーキを食べるリス族の暮らしなど想像もできないのですよ。

・・・下賎の民にとって、それはいたし方のないことだ」


幸村 「おいおい、何を言い出すんだ!」

 

*** 「身分を超えた友情を夢見るのもけっこう。だがその前に、知っておいたほうがいい。

スー太郎がなぜいつも裸足なのか。分かりますか?」


幸村 「健康にいいからだろう」


愁太郎 「違うよ」





*** 「フッ。まったく世間知らずもいいところだ。現実はそんな甘いものではない。

それはあの冬の夜。飢えをしのぐため、スー太郎はただ一足持っていた革靴さえ食べてしまったのだ!」



愁太郎 「食ってねえ」

 

*** 「われわれが晩餐会で山のような料理を前に、着飾った令嬢たちと談笑している夜。

ブタ小屋の中でボロキレにくるまり、あしたパン屋が恵んでくれる耳の数を皮算用して眠りにつく。

それが兄上の知らない、惨めなスー太郎の日常です!」







 












愁太郎 「・・・なんかコイツ、いつもと喋り方ちがわない?」


*** 「機械の体も買えない平民、口をつつしめ」


愁太郎 「おい、おまえのOS、なんだったっけ」


*** 「最新型の 『 HAKUSHAKU 9 』  だが、それがなにか?」


愁太郎 「やっぱ夢だこれ」

 


幸村 「ノーノー! シャラップ!!  愁太郎さんを混乱させるんじゃない。

いま余計なことを言えば、ぼくもお前も消えてしまうことになる」








 









 

愁太郎 「オマエラの話に付き合って、混乱せずに済んだためしなんかないんですけど」


幸村 「愁太郎さん、落ち着いて? ぼくとしては、あなたには「だんだんに」説明していくつもりなんです。

たとえばぼくがふるさとのホルツヘイムから、どうやって日本に来たのか。

列車のことにしても、いずれは自分の口から話すつもりでいました。 

困ったな。うやむやにしていたせいで、また怪しまれてしまったかしら・・・」

 

愁太郎 「うやむやも腹立つし、ハッキリ聞いてもワケワカンネーし、スゲー難しいよな」

















幸村 「ふうむ・・・しかしどちらかといえば、うやむやの中で生じる誤解のほうが厄介です。

やはり、きちんとお話ししておいたほうがいいような気がしますね」

 

 

愁太郎 「・・・・・・」

 

 

幸村 「遠いホルツヘイムから日本まで、リスの足でどうやって、と思っていたんでしょう? 

そうなんです。お察しの通り、ぼくたちホルツヘイムのリスは、鉄道・・・このリスーナイン号に乗って。

さまざまな都会や町、のどかな田舎へと旅をすることができるのです」


愁太郎 「それはもう、聞いたよ。ネジマキから」



幸村 「しかも世界中にです。スペイン、イギリス。エジプト、中国、インドにロシア。

もちろん日本やアメリカ、
南米やオセアニアにも、線路はつながっている!」


愁太郎 「ちなみに海の部分どうしてんの?」


幸村 「そのあたりはまた、おいおい」



愁太郎 「おいおい、じゃないだろ。あとさあ、キホン的なこと聞くけど。

たとえば
こっちからそっちに行く場合、駅とかどーなってんの? 切符とかどこで買うわけ? へっ」


幸村 「それは、各地の駅にリス用の窓口がありますから・・・。

日本の場合、きっぷは
主要JR駅などでお買い求めいただけます。

駅構内のすみっこのほうにときどきある、
「ふかみどりの窓口」、見たことありませんか?」


愁太郎 「ない」





幸村 「それは残念だ。リスーナインの切符は都市ごとにデザインが違うので、 コレクターもいるほどなんですよ。

ぼくのお父さんも若い頃に何枚か集めて、
いまではそれは額に入れて、居間の壁のところに飾ってあります」

 








 

 

 

 




 


愁太郎 「・・・今いっしゅん、おまえの実家を透視した気がすんだけど。

なんかもう、ボクそろそろ目を覚ましたほうがいい気がする」




幸村 「待ってください、愁太郎さん」


愁太郎 「なんだよ」


幸村 「あなたに伝えておきたいことがあります。

たしかに、ホルツヘイムは忘れられない聖地で、ぼくにとってはたいせつなふるさとです」


愁太郎 「・・・・・・」


幸村 「だから、ときどきはどうしても帰らなくちゃいけないんですよね」


愁太郎 「はぁ」


幸村 「ぼくが帰ると、みんなとても喜んでくれるんです。

こないだ零号機を連れてこちらへ戻るときには、たくさんの友だちが駅まで見送りに来てくれました」

 

















幸村 「みんな、ちぎれんばかりにハンケチを振ってくれて。”またすぐに帰っておいで”と
口々に言いました」


愁太郎 「・・・・・・」



























 



幸村 「ホルツヘイムはリスの聖地でふるさとだから。

一生あすこから出ないで、お祭りをして
暮らすリスもたくさんいるんですね」


愁太郎 「・・・そうなんだろうな。知らないけど」


幸村 「でもね。ぼくは、列車に乗って外の世界に出て行って、ほんとうに良かったと思っています」


愁太郎 「・・・」




















幸村 「もちろんひょっとしたら、またときどきは里帰りすると思いますけれど、

あなたさえよければ、そのたびまた列車に乗って、あなたの家に戻ってきたいと思います」


*** 「お好きなように。しかし、身分は身分だ。兄上のいない間は、スー太郎はあくまで下男として、ブタ小屋で寝泊まりさせますぞ」


愁太郎 「お前もまとめて里帰れよ」

 

 

 


幸村 「できたらあなたも、列車に乗せてあげられたらいいのだけど。

足で行くには、ホルツヘイムはひじょうに遠いから」

 

 

 

 

愁太郎 「・・・今気づいたんだけどさ。

おまえが今ボクにしゃべってることって、結局は、
ひょっとして、ボクがお前に「言って欲しい」と思ってることなのかな」

 

幸村 「ふふ。そうですね。もしこれがあなたの夢ならば、ぼくはあなたの心の、奥底にある気持ちを喋っているのかもしれない」

 

愁太郎 「そう考えるとちょっといたたまれないな」

 

幸村 「そうですか? ぼくはかえって嬉しいような気がします」

 

愁太郎 「・・・でも、今のもボクが・・・」

 









 

















 

 

 










 

 





































































































愁太郎 「・・・フロングにドングリ、か」










(おしまい)



※ブラウザバックでお戻り下さい   web拍手