愁太郎 「ふう。これでよし・・・と」
愁太郎 「それじゃ起動させるか。・・・若干の不安がないわけでもないが、作戦遂行のためには致し方ないだろう」
愁太郎 「・・・もし暴走したら、またすぐぶっこ抜きゃいいもんな」
愁太郎 「というわけで、ブスッとな!」
*** 「セ〜〜ガ〜〜〜〜〜♪」
愁太郎 「・・・この起動音なんとかなんないのかな」
*** 「Loading
now・・・
ゼンマイヲ抜カナイデクダサイ・・・」
*** 「・・・・・・」
愁太郎 「電源入ったかな? おーい」
*** 「・・・おまい、」
愁太郎 「待て待て! なーーんにもしゃべらなくていいからな。そら、ハウス!」
*** 「?」
愁太郎 「ハウスっつってんだろ。早く入れよ。そのハコん中」
*** 「・・・・・・」
愁太郎 「せっかくここまで運んだんだから。早くしねーとゆき・・・いや、いーから早くしろ」
*** 「・・・なぜオラを起ごしだのだ?」
愁太郎 「は? いや、そりゃボクだってできれば起こしたくなかったけどさ。おまえクソ重いんだよな。ここまでは何とか転がしてきたけど、持ち上げんのはさすがに無理だから。ハコの中には自分で入れ。な?」
*** 「おい、スー太郎」
愁太郎 「ボクの名前はしゅ・う・た・ろ・う! でもってオマエと話なんかしないぞ。なんとかパイも作りませんので、そこんとこよろしく」
*** 「・・・やはりオラには、はなはだしく解せぬ」
愁太郎 「?」
*** 「兄様(あにさま)はなぜに、このような者を選んだのだ」
愁太郎 「あにさま?」
*** 「・・・おまいのような乱暴な、しかもよりによって、頭がアライグマ色の者を」
愁太郎 「ワケわかんねーこと言ってねーで、早くしろって」
*** 「オラが察するに、おまいは何も分がってない者だ。そんでこれからも、何も分がろうとしない者だのに」
愁太郎 「赤の他人ちに上がりこんだあげく、パイ食わせろって大暴れするオマエのほうがよっぽど何もわかってねーだろ」
*** 「ともかぐこれは、いぢど兄様に聞いてみなぐては。・・・兄様はどこだ?」
愁太郎 「・・・幸村のこと? なら知らないよ。散歩でも行ってんじゃない」
*** 「いねえ? 兄様いねえのが」
愁太郎 「アイツ時々ふらっといなくなるからなー。ゴミの集積所とか回ってるみたいだけど。心配しなくてもすぐ帰ってくるから、オマエはハコん中で大人しく待ってろ。な?」
*** 「・・・ますますわがんねぇな。兄様がいねのに、なんだってオラを起ごしだ」
愁太郎 「そこそんなにツッコんでくると思わなかったなあ」
*** 「答えろて。なすてオラを起ごしだんだ」
愁太郎 「えーと・・・そうそう! ほら、オマエってさ、部屋ん中に、電源切れたまんまドデーンと寝てたろ。いい加減、ちょっと邪魔だなって。気になり始めたらガマンできなくてさ。うん、そんな感じ。どう?」
*** 「なーんが腑におぢね。そりはおまいの本心(ほんすん)か?」
愁太郎 「は?」
*** 「本心かって聞いとるのよ。もっどもらすぃ理由を言うけれども」
愁太郎 「本心本心。邪魔になんないとこに片付けたいだけよ。マジで」
*** 「どうだか。・・・オラが思うに、おまいはどうも、ほんとのとこを隠しとるな」
愁太郎 「・・・・・・」
*** 「スー太郎よ。おまいがオラを起ごしだのには、ただハコづめにするだけとは違う、別の理由があるんでねが?」
愁太郎 「ギクリ」
*** 「ほれ、怪すぃ感じだ。おまいは、オラをしまうと見せかけて、兄様の留守に隅々までオラを観察するつもりだべ!」
愁太郎 「は?」
*** 「ふん。図星(ずぼす)だな・・・実はおまいは、オラに興味津々なのだ」
愁太郎 「はぁ?」
*** 「まぁ無理もない。オラは生命と機械の間・・・ホンモノみたいな者だもん。おまいがその秘密に興味を引かれたとしても不思議(ふすぎ)はないな」
愁太郎 「・・・ぶはっ! ないない。おまえみたいなポンコ・・・いや、イナカッペにはまるで興味なんかないから安心して」
*** 「何を言う! オラは最新型だ! ホルツヘイムではいつばん新しいOS、『 TAGOSAKU
9
』が搭載されでいるのだぞ!」
愁太郎 「イナカッペじゃねーか」
*** 「おまい!」
愁太郎 「ってゆーか、オマエの仕様とか本当にどーでもいいし興味もないから。ボクはただ今までどおり、静かに暮らしたいだけ。幸村はともかく、おまえの面倒なんか絶対見ないからな」
*** 「・・・・・・」
愁太郎 「もーいいから、さっさとそこのハコ入れよ。ふた閉めてガムテープでグルグル巻きにして、こっそり、ホルツなんとかに送り返してやる。オマエだって故郷のほうが落ち着くだろ?」
*** 「・・・・・・」
愁太郎 「そうだ、ついでに幸村のオヤジの住所を教えろよ。梱包してからそれとなく幸村に聞くつもりだったけど、オマエが知ってるなら話が早いんだ。着払いで送りつけてやる」
*** 「・・・・・・」
愁太郎 「まさか知らない? おいおい、オマエはあそこで作られて、幸村と一緒に歩いてウチまで来たんだろ。自分がどこから来たかくらい、覚えてるよな?」
*** 「・・・歩いてだと? やれやれ。おまいはつくづく、何にも分がってない者だ」
愁太郎 「は?」
*** 「今のでうんとこ分がった。おまいはホルツヘイムのことをまるで知らなさすぎるぞなもし」
愁太郎 「あのなあ、ボクはできれば知らないままでいたかったんだよ。頼んでもないのに、そっちが勝手にスゲーいろいろ知らせてくるんだろ!」
*** 「ふん。そんなこどを言うわりに、おまいは、あの村が何処にあるかさえ、未だに知らんのではないが?」
愁太郎 「第一話からずーーっと聞いてんのに、オマエラの答えがいっこうにマトを得ないんだろ」
*** 「ホルツヘイムはうんとこ遠いぞ。山林かきわけ、海を越え、幾夜もとびこえねば決してたどりつげねぇ」
愁太郎 「いいかげんに、「遠い」以外の情報よこせよ。お前も、幸村も」
*** 「わがらねぇ奴だな! ホルツヘイムの遠さは尋常ではねぇんだ!」
愁太郎 「だからさー、具体的にどこにあるわけ? ドイツの北、イタリアの南とか、範囲広すぎだろ」
*** 「その言葉通りでねぇが! おまいのような分からず屋は、ホルツヘイムの言葉で「ノータリンのアホンダラ」と言うだ」
愁太郎 「それホルツヘイム語じゃねーし」
*** 「ともかくもだ。歩いて行くなど正気の沙汰ではねぇってことよ。ホルツヘイムに行ぎたくば、まず駅を探さねば」
愁太郎 「・・・駅?」
*** 「んだ。駅を見づけて待って、れいの列車をつかまえる」
愁太郎 「列車?」
*** 「ホルツヘイム行ぎの急行列車さ! 山林かきわけ、海を越え、幾夜もとびこえてひた走る鉄の車輪!」
愁太郎 「・・・・・・」
*** 「線路をすべる車輪の音が響いてぐるまで、ホームで煮炊きして待づのもまた楽し!」
愁太郎 「・・・・・・」
*** 「明け方の空が白む頃、耳をつんざくその汽笛。おおあれだ、来たぞホルツヘイム行き急行列車・リスーナイン号!」
愁太郎 「急行列車・・・・・・」
愁太郎 「ヤバい、今いっしゅん、なんか変な絵ヅラが頭をかすめた」
*** 「?」
愁太郎 「・・・くそっ、オマエラに付き合ってるといっつもこうなんだよな。しっかりしろボク。・・・おい! ムダ話はもういーんだよ! さっさとハコ入れ!」
*** 「なんだべ、いぢいぢえらそうに。オラに命令するな」
愁太郎 「はん、逆らうなら仕方ない。こういう展開も予想しなかったわけじゃないからな。またこないだみたいにゼンマイぶっこ抜いて、動き止めてやる」
*** 「やれるもんならやっでみれ。こないだは油断すたが、こんどはそうはいがね!」
愁太郎 「お? やるってのか? お望み通りに強制終了させてやるぜっ」
*** 「動くでねぇスー太郎!」
ズドン! (爆発音)
愁太郎 「・・・ズドン?」
愁太郎 「・・・おい、なんだよその物騒な左手は!」
*** 「おまいはオラを怒らした。オラの中にひそかに流れる、野獣の血に火を点けたのだ!」
愁太郎 「もともと野獣丸出しだろ」
*** 「クチの減らないアライグマめ! もう一発食らいたいというわけだな?」
愁太郎 「待て、話せばわかる」
<おしまい>
★
山林かきわけ、海を越え、幾夜もとびこえてひた走る鉄の車輪・リスーナイン号がやってくる!
企画展「ホルツヘイムを探して」 のご案内は こちら
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