愁太郎 「思うに、ボク自身は日々ほんとフツーに暮らしてるつもり」
愁太郎 「・・・なのに、まぁつぎつぎ、いろんなことが起こるもんだな」
愁太郎 「正直、これは無防備すぎる自分にも原因がある。いい加減学習するべきだな、ボクも」
幸村 「どうしたんです?」
愁太郎 「どうしたもこうしたも」
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愁太郎 「勝手に1UPしないでくれる」
幸村 「いえ、愁太郎さん。これはまた別リスですよ! ぼくが増殖したわけではないですので」
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愁太郎 「誰なの」
幸村 「ええと・・・「彼」は、汎用型ギリスです。」
愁太郎 「・・・」
愁太郎 「・・・ボク、宅急便を待ってたんだよなあ」
幸村 「はぁ」
愁太郎 「予約したゲームがもうそろそろ来るはずだったから楽しみにしてたんだよね。
たまたま休みの日と重なったし、このタイミングでピンポン鳴ったらさー、来たと思うじゃない」
幸村 「ええ」
愁太郎 「玄関に立ちながら、期待で若干ほくそえんじゃったりなどね」
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愁太郎 「つまりその瞬間のボクというのは、自分でもあきれるほどに、完全に無防備だったわけだ」
幸村 「ちょっと待ってください。彼は別に、あなたに危害を加えたりはしませんよ!」
愁太郎 「・・・で、誰なの?」
幸村 「おそらくは、うすうす分かっていただいてるかと思うのですが」
愁太郎 「・・・非常に見慣れた、イヤなものがついてることは理解している」
幸村 「零号機のきょうだいみたいなものです。ぼくの連れてきたギリスは零号機・・・いわば試作機なんですけど、
その改良型というのかな。実用機第一号として、さいきん人間界に派遣されてきたのです」
愁太郎 「返して来い」
幸村 「えっ」
愁太郎 「うちでは飼えないからな。お前の連れてきた田吾作だけでも手ー焼いてんのに」
幸村 「ええと愁太郎さん、」
愁太郎 「しっかし言いたかないけど、お前のオヤジってたいがい図々しくない?
雪だるま式につぎつぎ居候送り込んできやがって、オマエらの食費とか光熱費とか水道代とか、どう考えてんだろな?」
見慣れぬギリス 「あのう」
見慣れぬギリス 「もしかしてぼくのことでしょうか。その・・・ここでは飼えないというのは」
愁太郎 「ほかに誰がいるんだよ」
見慣れぬギリス 「やっぱりそうですか? でも、でしたら、どうぞご心配なく。ぼく、すぐ帰ります」
ギリス 「遠慮すっこたねぇ! ゆっくりしてけばいいろ」
見慣れぬギリス 「そういうわけにはいかないよ。スー太郎さんのご迷惑だろう」
愁太郎 「は?」
見慣れぬギリス 「驚かせてごめんなさい。ぼく、けしてあなたの家にお世話になろうとか、
そういうつもりで来たわけじゃないんです。自分の家に帰る途中なんです。
ホルツヘイムで定期健康診断を受けて、その結果が良好だったもんですから」
愁太郎 「・・・健康診断?」
見慣れぬギリス 「はい。と言っても、ぼくの場合、中がひどく錆びてないかとか、
ゼンマイが延びてやしないかとか、そういうのですけど」
ギリス 「んだほで、そっちのほうはどうだったのよ?」
見慣れぬギリス 「うん。ちょっとネジに緑青が出てたから、磨いてもらった。
でもそれ以外の結果はおおむね良かったよ。・・・それで、回収されずにそのまま家に帰れることになったんです」
愁太郎 「回収?」
見慣れぬギリス 「ええ。不具合が多かったら、そうなるところでした」
愁太郎 「ちょっと聞きたいんだけど・・・その健康診断ってのは、」
見慣れぬギリス 「はい?」
愁太郎 「その・・・えーと、みんな受けるわけ? ・・・その、オマエラみたいな? ネジマキの一族は」
見慣れぬギリス 「そうですね。博士は健康診断・・・つまり定期点検をとても重要視しています。
ぼくらはヒトとの共存のために作られていますから、万が一の故障や不具合も許されないんです」
愁太郎 「そーなんだ」
見慣れぬギリス 「だって、もし故障や不具合で、ヒトに危害を加えたりしたら大変でしょう?
せっかくの友好関係がメチャメチャになってしまうじゃないですか」
愁太郎 「危害を加えられ続けた挙句メチャメチャな関係になったから言うけど、ホントそうだよな」
見慣れぬギリス 「えっ、そうなんですか?!」
ギリス 「なんの、元はど言えば、こいづが悪ぃのよ。オラをだまくらかして無理矢理箱詰めしようどしだりすんだから」
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見慣れぬギリス 「えっ、そうなんだ?!」
愁太郎 「オマエがおっそろしく凶暴で物騒だからだろ! 口ゲンカの最中に突然銃口突きつけられてみろ。チビるぞ」
ギリス 「なんだべ。やるか?」
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見慣れぬギリス 「零号機! だめだよ!」
ギリス 「なぁに、殺しやしねぇ。足を狙う」
見慣れぬギリス 「スー太郎さんにそんなことしちゃあだめだよ。あにさまだって困ってしまうよ。
うーん、・・・なんだかホルツヘイムにいたときより、凶暴さに拍車がかかっているなあ」
幸村 「やはりそう思うか?」
見慣れぬギリス 「これはいっぺん健康診断を受けてみたほうがいいかもしれませんね」
愁太郎 「それそれ! 知りたいのはそこなんだよ。仮に受けさせたとしてさ、結果がスゲー悪くて、
どーしよーもない場合ってどうなるの」
見慣れぬギリス 「それは・・・残念ながら、回収の上、最悪スクラップかもしれません。
軽微な故障ならば博士が直せると思いますが、すごく悪い場合は」
愁太郎 「そのままスクラップにすることもやぶさかではない、と」
ギリス 「おまい、何を考えてるだ」
愁太郎 「別に。」
見慣れぬギリス 「零号機が不安になるのも無理ないです。かくいうぼくも、不具合が見つかってスクラップにされたら
どうしようってすごくドキドキしてました。でもだいじょうぶでした。おかげで、思ったよりだいぶ早く帰れることになったんです」
愁太郎 「へー」
見慣れぬギリス 「それで、ここへ寄っちゃったんだけど・・・。ぼく、普段あまり遠出しないので、この機会に
同じ日本にいるあにさまと、かの有名な、ホルツヘイム友好人物のスー太郎さんに会えたらと思って。
・・・あっ、そうだ、緊張しててスッカリ忘れてたけど、これお土産です、つまらないものですが」
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見慣れぬギリス 「ぼくの家のあるほうの特産品です。・・・と言っても、買ったのは東京駅構内なんですけどね。
さすがに家から持ってくるには大きくって。お口に合うといいんですけど」
愁太郎 「北海道・・・?」
見慣れぬギリス 「雪国です」
幸村 「彼は北限のギリスなのです。日本の中でも比較的温暖な関東地方に派遣された零号機に比べ、
汎用型は厳しい気候にも耐えうるタフな外皮構造を持っています」
幸村 「また感情OSの点でも、零号機に比べるとかなり改良されています。
気質は非常に穏やかで、他者に友好的態度で接することができるんですよね」
愁太郎 「友好的って・・・」
見慣れぬギリス 「あにさま、それじゃあぼく、そろそろ失礼しますね」
幸村 「おや、もう行くのかい」
見慣れぬギリス 「はい。憧れのスー太郎さんにもお会いできたし満足です。
・・・あっ、そうだ! すみません。できたら握手してもらえませんか?」
愁太郎 「・・・握手?」
見慣れぬギリス 「はい。お会いできた記念に。家の人に自慢したいんです」
愁太郎 「・・・はぁ。まぁ、別にいいけど」
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見慣れぬギリス 「どうもありがとう。やあ、これでとうぶん手が洗えないや!
・・・ぼく、あにさまの決めた家と、スー太郎さんを一目見てみたかったんです。」
愁太郎 「・・・そうなの?」
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見慣れぬギリス 「はい。家にかえったら、ぼくの家のひとに青い格子模様のシャツを薦めてみようかな。
すごくおしゃれなんだもの」
愁太郎 「・・・」
見慣れぬギリス 「突然お邪魔してすみませんでした。向こうに着いたら、お礼のハガキを書きますね」
愁太郎 「あ、ああ」
見慣れぬギリス 「それから、さしでがましいようですが、ホルツヘイムにもハガキを出して、
博士に食費と光熱費と水道代のこと、それとなく伝えておきます。あなたからじゃ言いにくいでしょう」
愁太郎 「おいおい、ボクは別に、なにもそこまで」
見慣れぬギリス 「いえ、いえ! だめですよ、スー太郎さん。勲八等を授与されるほどのあなただ、
リスには無償で親切にするのが当たり前、そんなふうに思っているんじゃないでしょうか?」
愁太郎 「いやそんなことは・・・なんていうの、成り行き上、しかたなくっていうか」
見慣れぬギリス 「あなたは優しいひとです。でも優しさだけでは人は生きられない。あにさまと
零号機にたいするあなたの献身と犠牲、少しは対価を要求するべきですよ。
でないとあなたの生活はいつか破綻してしまう----渡る世間はリスばかりなのですから」
愁太郎 「やな世間だな」
見慣れぬギリス 「どうか身体には気をつけてくださいね。ぼくなんかが言うのもなんですが、
あにさまと零号機のこと、今後ともどうぞよろしくおねがいいたします」
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愁太郎 「・・・」
愁太郎 「なー 幸村」
幸村 「はい?」
愁太郎 「このギリスとあのギリスって、とっかえられないの」
(おしまい)
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