生まれたときから14歳だったので、サンタクロースにプレゼントをもらったことはない
家族はいないし恋人もいないから、誰かと何かを贈りあうこともない
だから今日は、自分で自分に、贈りもの
特別なプレゼントを用意しよう
そう、甘やかされた子どもみたいに、ひどく特別なプレゼントを
「・・・しかし」
「・・・なんか思ってたのと違うなあ」
「もっとこう、ホワンと癒される感じかと思ったんだけど」
***「・・・・・・」
「この肉球は気に入ったけど、ほかは何だかつるつるしてるし」
***「つるつる?」
「あ、聞こえてるか」
***「失礼ですが、あなた今、つるつるといいました? この、ぼくに向かって?」
「だいたい、しゃべるなんて思わなかったなぁ。ヒト型でもないのに」
***「ちょっとおたずねしますけど」
「ああ、なに?」
***「ここはホルツヘイムの森ではない?」
「? ここはボクの家だけど」
***「やっぱり。ぼく、ホルツヘイムに行かなきゃならないんです。あなた、
道をご存知ありませんか」
「・・・えーと。その、ホルツヘイムっていうのは」
***「まさか、ホルツヘイムをご存じない?」
「あいにく」
***「有名なリスの村ですよ! クリスマスの夜には、世界中のリスが集う
リスの聖地!!」
「ふうん。でも、ここはボクの家だよ」
*** 「困ったなぁ。どこで道を間違えちゃったんだろう。こうしちゃいられない、
早く出発しないと間に合わないぞ」
「ちょっと待てよ。 おまえはボクの人形だろ」
***「なんですって?」
「ボクが自分のクリスマスプレゼ ントに買ったんだよ」
***「どういうことです? それは」
「ボク、インターネットのおもちゃ屋でおまえをポチったの。 さっき配達されてきた
ところじゃないか」
***「ボチった? あなたが? ぼくを?」
「微妙に違うなぁ」
***「それもインターネイトで?」
「違うけど、 まぁそう」
***「・・・わかりました。でもぼく、イブが終わる前に、ホルツヘイムに行かないと
いけないんですよね」
「全然わかってねーじゃねーか」
「参ったなぁ」
***「ぼく、クリスマスの祭りに間に合うでしょうか。今すぐここを出れば、
ホルツヘイムに着くかしら」
「知らないよ」
***「あなたの家でもクリスマスをするんでしょう? やぁ、だいぶん大きな
クリスマストリーがありますね。ひょっとして、これからお友達が大勢やってくる?」
「誰も来ないさ。呼んでないし」
***「そうだと思った! パーティをするのに、ここにはクラッカーも薄切りの
パンも、そういうのの上に乗せるこってりしたパテも見当たらないもの。ついでに
言うと、シャンペンもない」
「ご明察」
***「じゃあ、あなたのほうからお友達のところへ出かけていくんですね?
もう支度は済んでる?」
「どこにも行かないし、誰とも会わないよ。ボクは人見知りだし、大勢集まる
パーティに顔を出すくらいなら、家で静かに音楽でも聴いてるほうがいい」
***「・・・待ってください。それじゃあなたは」
「なんだよ」
***「その・・・まるっきりの一人ぼっち? クリスマスイブの夜に? どこにも
行かず、誰とも会わずに過ごす?」
「別にいいだろ。そのほうが気楽な人げ・・・人形だっているさ」
***「ゆゆしき事態・・・! これは相当にゆゆしき事態・・・!」
「クリスマスだからって大勢でバカ騒ぎするほうがどうかと思うけど」
**「もしや運命・・・いや、奇跡なのか? 聖夜に孤独きわまる彼の前を、
ぼくという一尾の心正しきリスが、偶然とはいえ、通りかかった!」
「買ったんですけど。ネットで」
***「あの・・・ぼくでよかったら一緒にお祝いしますか? クリスマスを」
「・・・ホルムなんとかに行くんじゃなかったの」
***「行きたいのは山々だけど、あなたを見捨てるわけにはいかないでしょう。
イブの夜に一人ぼっちでいたら、包丁を持ったボサボサ髪の鬼がやってきますよ!」
「それ他の行事と混ざってないか?」
***「そうと決まったらさっそく、パーティの献立を考えよう! ちなみにぼくの
大好物は新鮮な生ハムです」
「肉食かよ!」
***「あぁ、外を見て。寒さで窓が真っ白だ」
「ほんとだ」
***「今夜は雪になるかもしれない」
「・・・そうだね」
***「・・・あなたの名前を聞いてもいいですか?」
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