♪ うつろな僕の胸をつらぬく 君のまなざし


♪ 形のない心臓に刻む 偽りの鼓動 




















♪ 日に透けるまぶた 硝子の玉 君の声


♪ 鳥よりも高く 虫よりも密かな 僕だけに聞こえる 声




愁太郎 「・・・うーん」














愁太郎 「・・・”虫”じゃちょっとアレか」







愁太郎 「♪ 蝶よりも密かな 僕だけに聞こえる 声」






愁太郎 「蝶だな。よし、ここは蝶にしとこう」















愁太郎 「♪ 日に透けるまぶた 硝子の玉 君の声 

♪鳥よりも高く 蝶よりも密かな 僕だけに聞こえる 声」




















愁太郎 「♪ チャラッチャッチャ〜〜ン! フンフンフ〜〜〜ン(鼻歌)」





♪ うつろな僕の胸をつらぬく 君のまなざし


♪ 形のない心臓に刻む 偽りの鼓動




















幸村 「愁太郎さん!」




愁太郎 「わっ!!」















幸村 「いいからそのまま続けてください! さぁ、そのまま歌の続きを!」














愁太郎 「は?」

幸村 「あなたの声は、実にすばらしい! 透明感があって、それでいて
青く大人びた、切ない雰囲気もある。 ぼくは今・・・とても感動しています!」

愁太郎 「そ、そう?」





愁太郎 「とゆーか、おどかさないでくれる」

幸村 「やぁ、すみません。 でも、素敵な歌が聞こえてきたものだから。 
僕だって歌は大好きなんですから!」

愁太郎 「そーなんだ」












幸村 「それにしても」

愁太郎 「? うん」

幸村 「いつも大人しいあなたが、歌を歌うとは、とても意外です」

愁太郎 「そう?」

幸村 「しかもたいへんに巧い! そこいらの歌リスなど、まるでかないませんよ」

愁太郎 「いや・・・まぁ、それほどでは。」


幸村 「あなたがホルツヘイムにいたなら、きっと聖歌隊から誘いが来ますよ! 
聖歌隊のメンバーは、村中の歌リスの憧れです」


愁太郎 「・・・お前さ、よくそんだけつぎつぎ色々と考え付くねぇ」



幸村 「じつは僕も聖歌隊のメンバーなんです。 1歳リスになると同時に入団試験を受けました。
楽譜よみのテストと、課題曲 『星空を往く5匹のリス』の独唱など、100点満点中82点の
高得点でパスしたのです」

愁太郎 「それ合格ラインどんくらいよ?」

幸村 「80点」

愁太郎 「ギリギリじゃねーか」


幸村 「あなたは知らないでしょうが、聖歌隊のメンバーに選ばれる、というのは大変な名誉なんです。
試験が難しいのは当然ですよ! もっとも」

愁太郎 「?」

幸村 「ぼくには例のお守りがありましたから、合格はもしかするとそのおかげかもしれません」

愁太郎 「ふぅん。 お守りねぇ」

幸村 「ああっ!!」


愁太郎 「声でかいよ」


幸村 「愁太郎さん! そういえば、ぼく、あなたに上げたいものがあります。ちょっと待ってて!」

愁太郎 「? うん」













幸村 「お待たせ!」






















幸村 「さぁこれを。ぼくの村のお守りです」













愁太郎 「・・・どんぐり?」





幸村 「これはホルツヘイムの、茶色くならないドングリです。特別な木の実です。
僕の村では昔から、身に着けていると願い事をかなえてくれると言われています」


愁太郎 「・・・・・・」














幸村 「ぼくも同じドングリを持っています。お父さんにもらった宝物ですよ」











愁太郎 「・・・・・・」


幸村 「茶色くならないドングリは、ホルツヘイムでしか採れない値打ちものです。
ドングリの売り上げは、村の観光収入にもおおいに貢献していますよ」

愁太郎 「観光・・・?」

幸村 「噂を聞きつけ、最近ではヨーロッパやアジアからも、バイヤーが買い付けに
来るというんですから」

愁太郎 「ソイツらどーやって辿り着くんだろ。 ソボクな疑問」

幸村 「ヒント:ホルツヘイムはドイツの北、イタリアの南ですよ! 愁太郎さん」

愁太郎 「それが分からない」










幸村 「・・・ドングリ、気に入りませんか?」

愁太郎 「いや・・・。 なぁ、これホントに茶色くならないの?」

幸村 「ええ。ぼくの村に行けば、もっと色んな色のドングリが見れますよ。
青いのや透明のや、珍しいのはピンクと紫のまだらのやなんか」



愁太郎 「持ってたら願い事が叶うって?」

幸村 「ええそう。あなたの願い事はなんです?」

愁太郎 「うーん。いきなり言われても」


幸村 「ドングリが持ち主の手に渡ったときが肝心なんです。念をこめなければ」

愁太郎 「そういうもん?・・・じゃあ、歌がうまくなりますよーに。これでいいだろ?」

幸村 「もちろん!」














幸村 「それじゃ愁太郎さん、さっそく一緒に歌いましょうか」

愁太郎 「は?」

幸村 「うまくなるには練習も必要です。 練習歌といえば『進めリスの無敵艦隊マーチ』が
定番ですが、たぶんあなたは知らないでしょうから」

愁太郎 「知るわけがない」

幸村 「ですから、ここはひとつぼくもあなたもよく知っている歌にしましょう。 ぼくが出だしを
歌うから、後を続けてください」

愁太郎 「カエルの歌とかそーゆー系?」

幸村 「誰でも知っている歌ですよ。・・・それでは歌います」

愁太郎 「ハイハイ」


幸村 「♪ YOUはSHOCK!!!」

愁太郎 愛で空が〜 落ちてく〜る〜!!  ・・・おい」

幸村 「YOUはSHOCK!!! って、このままだとぼくの担当部分、少ないですね。キー高いし」

愁太郎 「なに歌わせてんだよ」


幸村 「それにしても上手だなあ。あなたがホルツヘイムにいたら、ぼくと一緒に聖歌隊の
独唱メンバーに選ばれていたかもしれない」

愁太郎 「はぁ。」

幸村 「そうだ! ちょっと待っててください」

愁太郎 「おい、こんどは何処行くんだよ」





 ******







幸村 「お待たせしました」
















幸村 「さぁこれを。」


愁太郎 「?」












幸村 「これはホルツヘイム聖歌隊のメンバーに贈られる隊員バッジです。 ぼくのだけど、あなたに
貸してあげる。いや、もうあげたってかまわない。ホルツヘイムに帰れば、きっとまたもらえるでしょう」



愁太郎 「・・・・・・」















幸村 「ぼくたちの友情の記念です。 受け取ってくれますね?」



















愁太郎 「聖歌隊のバッジ・・・」















愁太郎 「茶色くならないドングリのお守り・・・」




















愁太郎 「・・・・・・もしかして、・・・本当にあるのかな・・・?」

幸村 「? なにがです?」












愁太郎 「・・・・・・いや、なんでもない。」














<おわり>


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