愁太郎 「返して来い」*** 「・・・気に入りませんか」
愁太郎 「気に入るとか入らないとか、それ以前の問題だろ」*** 「おかしいなぁ。ぼくは、これを見たらあなたはすごく欲しがると思っていましたよ」
愁太郎 「なんでそう思ったのか、サッパリ分かんないな」
*** 「ぼくのほうこそ訳が分からない。もっと嬉しそうにしてもいいんですよ!」
愁太郎 「・・・だいたいそれ、どこから持ってきたんだよ」*** 「どこにあったか知りたいですか? ・・・通りの角のところに、駅が
あるでしょう」愁太郎 「駅?」
*** 「ええ。毎週決まった曜日の朝に、青い車が停まる駅です」
愁太郎 「そんなトコロあったっけ?」
*** 「あの青い車は、いったいどこへ行くんでしょうね? たくさんの大きな
袋を積んで。袋の中身ときたら、ものすごくいろいろでした」愁太郎 「・・・」
*** 「運転手さんがその袋をポンポンと投げ入れると、あの青い車はいくらでも
飲み込んでしまうんです。しかも、駅で停まるたびにですよ!」愁太郎 「それゴミの収集車じゃねーか」
*** 「ぼく、そこで見つけてしまったんです。あなたにぴったりでしょう。
青い車の運転手さんに聞いたら、持っていっても構わない、と言うんですから」愁太郎 「・・・・・・」
*** 「照れることはありません。これは今のあなたに必要なものです。さぁ、
遠慮なく。ぼくからあなたへの贈り物なんです」
愁太郎 「返して来い」
*** 「見て。この人は、とても立派な帽子をかぶっていますね。それに、
足には茶色いブーツをはいているんです。とてもお洒落ですね?」愁太郎 「それ以外裸じゃねーか!」
*** 「この人を連れて、前にあなたが言っていたお人形の催しに行けばいい。
是非この人用の洋服を買ってあげてください!」愁太郎 「売ってない、に命賭ける」
*** 「さっそく名前をつけたらいい。 あなたの好きな名前でいいんですよ!」
愁太郎 「・・・」
*** 「彼を連れてお人形の催しに行けば、きっと誰かがあなたに話しかけてくれる!
そうだ、ぼく、あなたの自己紹介を考えよう。ぼくの言うとおりにすれば、
きっとあなたにも友達ができる!」
愁太郎 「・・・あのさ」
*** 「どうしました?」
愁太郎 「ボクずっとお前の名前を考えてたんだけど」
*** 「? ぼくの名前ですか? どうして?」
愁太郎 「色々考えたんだ。かっこいいのとか、派手なのとか。最初は、誰もつけてない、
珍しい凝った名前がいいって思ってたんだけど」
愁太郎 「結局、考えすぎて全然決まらなかった。どうしてみんなは、あんなにカンタンに
自分の人形の名前を決められるのかな」
*** 「いやだなぁ、愁太郎さん。ぼくの名前なら、「幸村」ですよ」
愁太郎 「は?」
*** 「ユキムラです。ぼくのお父さんがつけたんです。お父さんは若い頃に、日本を
旅したことがあって、大の日本びいきでしたから」愁太郎 「そんな設定、ボク全然知らないぞ!」
幸村 「それより、この人の名前を考えましょう。夏休みにはお人形の催しがあるんじゃ
ないです? 名無しのままで、あなたが冷たい人間だと思われたら大変だ!」
愁太郎 「・・・幸村・・・」
幸村 「? なんですか?」
愁太郎 「・・・いや。なんでもない」
(おしまい)
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