急がなくちゃ



























間に合わないかも


















走れ  ボク




もっと




早く






































「ただいま!」















































幸村 「やぁ、おかえりなさい!」

















幸村 「どうしたんです? そんなに・・・」
















幸村 「あわてて・・・・・・愁太郎さん?」

















幸村 「し、愁太郎さん?!」


愁太郎 「うるさいっ」








愁太郎 「今忙しいから話しかけんな!」















愁太郎 「早く早く・・・!」








愁太郎 「起動おせーよ!」

















愁太郎 「来た! もう開いてる!!」


























愁太郎 「いっそがなきゃ・・・! 売り切れっちまう」








カタカタカタ カタカタ (キーボードを叩く音)



カタカタカタ

























ポチッ (マウスをクリックする音)






愁太郎 「うぁ、こっちのサイズもあるのかよー」






愁太郎 「・・・ええい!」











ポチッ (マウスをクリックする音)




















愁太郎 「・・・! 買えた!」





























愁太郎 「ふーっ!」





















愁太郎 「あー。なんか一気にチカラが抜けたな」














幸村 「あの・・・愁太郎さん」
















幸村 「いったい何をそんなに慌てていたんです?」


愁太郎 「なにって、買い物だよ!」

幸村 「買い物。」

愁太郎 「そ。今日の22時オープンのネットショップ!」

幸村 「ネイトショプー? その、ボタンをカタカタやると何か買えるのですか?」

愁太郎 「そこから説明すんのかよ。気が遠くなるな」




幸村 「いったい何を買ったのです? どこにも品物がありませんけど」

愁太郎 「そりゃそうだよ。これから届くんだから」

幸村 「ふぅむ。きっとなにか、素敵な品物が買えたのでしょうね?」

愁太郎 「あったり前だろ! すっごいオシャレでぴったりな服なんだ。ちなみにほら、
もう売り切れてクローズしてる! ざまあみろ、買えなかった愚民ども。わはは」











幸村 「・・・ところで、どんな服を買ったんです? 超オシャレ、というと・・・最近流行のダブルの
スーツ?! それとも、ラメの入った薄手の開襟シャツかしら」

愁太郎 「全然ちがう」

幸村 「それでは、竜の刺繍が入った青いサテンのジャンパーかな?」

愁太郎 「チンピラ服ばっか出てくるな」

幸村 「太い金の鎖と、小脇に挟む四角いカバンも忘れてはいけませんよ! それが定番の
ようですから!」

愁太郎 「お前どこへ見学に行ったんだ。そんなんじゃないよ。もっとオシャレな・・・デザイナー
Tシャツだもん」









幸村 「そうなんですか。・・・ところでその、さっきからぼくが気になっているのは・・・
あなたの髪型・・・髪の毛のことなんですけど」




愁太郎 「ん? あー、これ?」













愁太郎 「今日は替えるヒマなかったんだ」






幸村 「? 替える?」





愁太郎 「そそ。ギリギリまでかかったからなー。仕事のときはいつもこのアタマでしょ」

幸村 「?」

愁太郎 「参ったよ。8時には終わる予定だったのにさ」

幸村 「・・・ちょ、ちょっと待ってください!」

愁太郎 「ん? なーに?」











幸村 「まさか、あなたは外で労働をしているのですか?」

愁太郎 「当たり前だろ。いっつも何しに行ってると思ってたんだよ」

幸村 「ぼくはてっきり、あなたはまだ学生だと。その年頃で既に有職者とは
驚きです。見た目からして、まだ1歳リス未満だというのに!」

愁太郎 「勝手にリス年齢に変換するな」




幸村 「・・・それではもしかすると、あなたは家に帰るとき、わざわざ髪の毛を
替えているのですか? いったいどうしてそんなことを?」

愁太郎 「どうしてって・・・そりゃ、こんな色のアタマでコンビニとか、
ツタヤとか行ったら、目立つじゃん」










幸村 「目立つから・・・ですか」


愁太郎 「そそ。仕事帰りって色々寄り道したいでしょ」

幸村 「そんなものですか」

愁太郎 「そんなもんだよ」














幸村 「・・・なんだか今日の愁太郎さんは、とてもミステリアスだ」

愁太郎 「お前に言われたくない」

幸村 「そうですか?」

愁太郎 「そうですよ」









幸村 「愁太郎さん」

愁太郎 「ん?」

幸村 「・・・家にいる日はいつも昼まで寝ているのは、疲れているから?」

愁太郎 「まーね。しょうがないだろ。ボクが働かないで誰がココの家賃とか払うの」





幸村 「・・・ぼくは今、たいへんな罪悪感にさいなまれています。そうとは知らず、
実はあなたがいない間に、今日もこっそり冷蔵庫のビアーをいただいて」

愁太郎 「別にいいよ。飲むために買ってんだし」

幸村 「そればかりかDVDを観てゴロゴロしていたんです。「ナウシカ」はやはり
名作でしたが」

愁太郎 「お前あれ系好きなんだ? ボクもだけど」

幸村 「ハヤオ・ミヤザキはホルツヘイムでもよく知られていますよ。自然と文明の
共存は、我々リスにとっても普遍のテーマですから!」










愁太郎 「今ジブリの新作来てるだろ。次の休みに観に行ってもいいな」

幸村 「やぁいいですね、実はぼくも気になっていました。 「借り暮らしの豚」!」

愁太郎 「スゲェロクデナシの映画だな。そのタイトルだと」




幸村 「・・・・・・しかし」

愁太郎 「うん」

幸村 「これはぼくもそろそろ仕事を見つけなくてはいけませんね・・・!」










愁太郎 「そんな必要ないんじゃない。お前はリスなんだし」

幸村 「あなたは知らないでしょうが、元来、リスはとても働き者なんですよ」

愁太郎 「コンビニとかツタヤ行って、リスが店員だったらびっくりしちゃうな。ぷっ」

幸村 「いえ、せっかくですが、職種についてはもう少し専門性を求めたいです」


愁太郎 「・・・クルミの殻むきとか?」

幸村 「この近くに炭鉱とか金山はありますかね」

愁太郎 「コンビニとかツタヤ行けよ、まずは」















(おしまい)



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