愁太郎 「・・・・・・」

 

 

幸村 「愁太郎さん」

 



幸村 「何を見ているんです?」

 





愁太郎 「こないだのドールカフェで撮った写真。お前と行ったろ」

幸村 「・・・ああ! あの日は楽しかったですね!」

愁太郎 「まーね」

幸村 「ほんとのこと言うと、ぼく、あの小さなお店に、あんなに大勢のお人形が
集まるとは思いませんでしたよ」

愁太郎 「そうだろうな」

幸村 「その写真、ちょっとぼくにも見せてもらっていいですか?」

愁太郎 「どーぞ」

 

 

 

 

 

 







 










幸村 「・・・ぼくって、こんなに写真うつりがよかったかしら?」

愁太郎 「ポーズはワンパターンだけどなー」

幸村 「それに、この写真は少尉もすごくいい表情をしている!」

愁太郎 「少尉? 少尉って誰だ?」

幸村 「彼の通称ですよ。かぶっている帽子からして、おそらく海軍関係者なんじゃ
ないかしら」

愁太郎 「・・・」


幸村 「ねぇ愁太郎さん。ぼく、あすこで色々な人たちとおしゃべりをしました。
でも、すごく不思議に思ったことがあるんです」

愁太郎 「?」

幸村 「あすこには男の子もいたし、女の人もいました。それに子供たちも大勢。
だけど、どの人がお人形で、どの人がお人形じゃないんです? ぼくには全然
わからなかったなぁ」

愁太郎 「・・・」

幸村 「あなたは分かりましたか? 今度のときは、あなたも周りの人たちと
少しおしゃべりしてみたらいいと思いますよ」

 

 


幸村 「・・・ねぇ、愁太郎さん」

愁太郎 「ん?」

幸村 「どれもよく撮れています。あなたはとても写真が上手ですね」

愁太郎 「そう?」

 

 

幸村 「でもぼく、今気づいたんだけど」

 


 


幸村 「ここにはあなたの写真が一枚もありませんね」

 

 

 


愁太郎 「・・・あのな。ああいうトコで、オーナーは自分の写真なんか撮らないよ」

幸村 「どうしてですか? 特別な場所での写真は、いい記念になりますよ!」

愁太郎 「だってドールのカフェなんだぜ? 自分ちの人形にお出かけさせて、
普段と全然違う雰囲気でそいつらの写真を撮るのが楽しいんじゃないか」

幸村 「そういうものですか」

愁太郎 「て言うか、ドールカフェで自分がポーズとって記念撮影してる奴が
いたら、かなり変て気がする」

幸村 「・・・そんな! ぼくずーっとカメラに向かってVサインしてましたよ!」



愁太郎 「いや、お前は人形なんだけどさ・・・」






愁太郎 「・・・この、月に乗ってる写真はいいよな。お前、ホントに空にいる
みたいで。このセット、すごくいかしてた」


幸村 「少尉もそう言ってました」

愁太郎 「アイツしゃべんのかよ!」

幸村 「いいえ。そんな気がするだけです。・・・でもフフ、動かないお人形に対して
そんなふうに思うなんて、ぼくもちょっと変かしら!」

愁太郎 「・・・なんかワケわかんなくなってきたなー」

 




幸村 「愁太郎さん」

愁太郎 「ん?」

幸村 「今度また出かけたら、一緒に写真を撮りましょうね。ぼく、隣の人に
『シャッターを押してくれませんか?』って頼んでみますから」

愁太郎 「いや、だから・・・」

幸村 「一枚くらいいいでしょう。ホルツヘイムへ帰ったとき、みんなにあなたの
写真を見せたいんです」







愁太郎 「お前と話してると、ときどきスゲー変な気分になるな」

幸村 「? なぜかしら」

愁太郎 「さぁな。 ボクにも分かんない」

 






 

(おしまい)







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